弁護士工藤寛太(京都弁護士会所属)の判例紹介

京都の弁護士、工藤寛太です(京都弁護士会所属)。

 本日は、初めての試み、判例紹介のブログです。

 

本日ご紹介させていただくのは、最高裁平成25328日第一小法廷決定(民集673864頁)です。

(通販番組の商品紹介みたいになってしまいました…)

 

事件の概要をご紹介する前に、以下では「間接強制」という少し耳慣れない言葉が出てきますので、その意味をまずご紹介します。

「間接強制」とは、義務があるのにその義務を履行しない者に対して、裁判所が、「義務を履行しなさい。履行しないときは、1回の不履行につき〇円を支払いなさい。」という命令を出す制度です。無理矢理にでも義務を履行させるのではなく、「履行しなければお金を払わなければならない…」という心理的なプレッシャーを与えて、義務の履行を間接的に強制する方法です。

 

さて、事件の概要は、次のとおりです。

X夫とY子は、裁判離婚をしました。その際、2人の間の子Aの親権者は、Y子に指定されました。その後、X夫は、子Aとの面会交流を求めて裁判所に申立てを行い、裁判所は、「毎月第〇土曜日の午前〇時から午後〇時まで、X夫が決定する場所で、X夫とY子の協議により決定された方法(決定しないときは、〇駅の東口改札付近で子Aを受け渡す)で、面会を認める」という旨の審判を下しました。そこで、X夫が、裁判所の定めたルールに従って、Y子に対して、子Aとの面会交流を求めました。しかし、子AがX夫との面会を拒んだため、Y子は面会を認めませんでした。納得のいかないX夫は、裁判所に対して、間接強制決定を求める申立てをしました。裁判所は、第一審、第二審ともに、不履行1回につき5万円の金員の支払いを命じる決定を下したため、Y子がこれを不服として最高裁判所に許可抗告をしたという事案です。

ここでの問題点は、子との面会を拒否された場合に、間接強制により面会を実現することができるのか、できるとすればどのような場合か、です。

 

この事件についての最高裁判所の判断は、概略次のようなものでした。

面会交流を許さなければならないという家庭裁判所の審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流の時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど、子を監護している親が面会の際に行うべき義務の内容が特定されているのであれば、間接強制決定を出すことができる。これは、子が面会を拒絶する意思を示していたとしても原則的には変わらない。

                                      

上記のとおり、間接強制は、心理的なプレッシャーを与えて義務の履行を強制する制度ですから、履行すべき義務の内容がはっきりと特定されていなければ、間接強制決定を出すことはできません。心理的なプレッシャーをかけられたところで、何をどうやって履行すればよいのかが分からない、という状況になってしまうからです。

この最高裁判例は、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間、子の引渡しの方法が定められていることを理由に、履行すべき義務の特定に不足はないとして、間接強制を認めたものです。