弁護士工藤寛太(京都弁護士会)がご紹介する、判例の意義

京都の弁護士、工藤寛太です(京都弁護士会)。

本日は、判例の意義についてのブログです。

判例という言葉は、法学部出身の方にとっては馴染み深い言葉だろうと思います。私も、受験勉強していたころは、毎日嫌というほど判例と格闘してきました。そして、弁護士になると、受験自体よりもはるかに判例と格闘することが多くなりました。

そもそも判例とは何なのか。                         ご存知の方も多いと思いますが、判例とは裁判の先例のことをいいます。つまり、裁判所が示した判断が、その後の基準になるということです。           では、その後の基準になるとは一体どういうことなのか。1つ例を示してご紹介いたします。

恐喝罪と強盗罪という犯罪があります。この2つの区別は何でしょうか。2人の若者が、1人の老人の胸ぐらをつかんで、お金を脅し取ったら、これは恐喝でしょうか、強盗でしょうか。

法律を見ますと、恐喝罪は、刑法249条1項に「人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。」と規定されており、強盗罪は、刑法236条1項に「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし…」と規定されています。しかし、この規定を見るだけでは、上記の若者と老人の例は、恐喝とも強盗ともいえそうです。

昭和24年2月8日、最高裁は、被告人の犯行が強盗なのか恐喝なのかが問題となった事件において、相手方の反抗を抑圧するに足る程度の暴行・脅迫を用いて財物を取得した場合は強盗、それには至らない場合は恐喝であると判断しました。すなわち、強盗と恐喝は、「被害者の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫が行われたかどうか」という基準に従って区別すると判断したわけです。

この基準は、後の裁判においても参照されています。被告人の犯行が、強盗・恐喝のいずれに該当するのかが問題になる事件の裁判では、裁判官はこの基準に従って、いずれの犯罪が成立するかを判断します。

また、裁判官だけではなく、検察官や弁護士もこの基準を参考にします。例えば、検察官はこの基準に従って、被疑者を恐喝・強盗のいずれで起訴するのかを決定していると思われますし、弁護士は「被告人は強盗で起訴されているけれど、最高裁の示した基準に従えば、強盗ではなく恐喝と考えるのが妥当だから、恐喝罪が成立するにとどまる旨を裁判で主張していこう」と考えます。

このように、裁判所の示した判断は、判例として、裁判官、検察官及び弁護士にとって、その後の基準となることがあります。

ちなみに、上記の若者と老人の例は、これだけの事実関係では強盗か恐喝か判断しかねますが、深夜の人通りのない道での犯行であったり、若者の1人がナイフをちらつかせていたり、といった事実があれば、老人はもはや反抗することができないといえるため強盗となる、という判断に傾くと考えられます。