弁護士工藤寛太(京都弁護士会)がご紹介する、私戦予備及び陰謀の罪

京都の弁護士、工藤寛太です(京都弁護士会)。

本日は、私戦予備及び陰謀の罪についてのブログです。

イスラム過激派組織に参加するためシリアに渡航しようとした日本人数名が、私戦予備及び陰謀の疑いで任意の事情聴取を受けており、うち1名は住居の捜索を受けたというニュースが話題になっています。

弁護士であっても、この私戦予備及び陰謀罪がどんな犯罪なのか、スラスラ説明できる方はほとんどいないのではないでしょうか。刑事事件を専門に扱っておられる弁護士や検察官でも、この犯罪を担当したという方は珍しいと思います。警察も、私戦予備及び陰謀の容疑で強制捜査を行うのは初めてだとのことです。

刑法93条は、私戦予備及び陰謀の罪を次のように規定しています。
「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。」

「予備」というのは、準備のことです。すなわち、外国に対して戦闘行為をするために武器や資金を調達するなどの行為が、私戦予備罪に該当します。       「陰謀」というのは、戦闘行為実行のために2人以上の者が謀議・画策を行うことをいいます。

なお、通常、「予備」という犯罪は、殺人予備罪(刑法201条)のように、殺人罪が存在し、その準備行為を殺人予備罪として罰するという構造になっています。しかし、私戦の場合は、私戦予備罪は存在しますが、私戦罪は存在しません。その理由は、私人が外国と戦争を行うことなど現実的にはあり得ないから、あえて犯罪とはしなかったのだと考えられています。もし万一、実際に私戦行為に及んだとすると、外国人に対する傷害罪や殺人罪などの一般犯罪が成立すると考えられます。

最後に、刑法93条但書にあるとおり、私戦予備・陰謀罪は、自首によって刑が免除されます。自首をすれば刑が必ず免除されるというのは少し極端なようにも思われますが、予備ではとどまらずに、実際に外国に戦闘を仕掛けてしまうと、日本国の国際的地位は大きく揺るがされることになりかねません。そこで、実際に外国に戦闘を仕掛けることを思いとどまらせるために、刑の免除という大きな特典を与えた規定だということができます。