弁護士工藤寛太(京都弁護士会所属)の判例紹介

京都の弁護士、工藤寛太です(京都弁護士会所属)。

 

本日は、再び弁護士らしく、東京高裁平成24年11月28日判決をご紹介します。

 

以下では、「共有」という言葉が出てきます。この「共有」というのは法律用語ではありますが、その法律的な意味は、日常的に使われている「共有」という言葉の意味とあまり変わりません。シンプルに言えば、複数の人間で1つの物を共同して所有することです。友達とお金を出し合って1台の自転車を買った場合、1つの建物を2人で相続した場合などに、共有状態が発生します。

 

さて、東京高裁平成24年11月28日は、株式の共有が問題となった事例です。本事例において、どういう経緯で株式が共有状態になったのかは分かりませんが、親の持っている株式を複数の子どもで相続したというような場合に、株式の共有が問題となることが多いです。

株式が共有になっている場合に関して、会社法は、106条に次のような規定を置いています。「株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式会社についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」

ここでいう「権利」とは、例えば株主総会における議決権です。106条は、「株式が共有になっている場合は、株主総会で議決権を行使する人を1人決めて、会社に通知しなさい」と要求しています。このような規定を置いて、会社に対する通知を要求した目的は、会社が「結局、誰が株主総会で議決権を行使するのですか!?事前に誰か1人に決めて通知してくれないと、株主総会がぐちゃぐちゃになってしまうじゃないですか!」という状態になることを防止するためです。

会社の便宜を図るために通知を要求しているので、裏を返せば、会社側から同意して議決権を行使させるぶんには問題ないということになります。それが但書で「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と定められています。

とはいえ、但書を文字どおり読んで、会社が同意すればそれだけで共有者のうちの1人が他の共有者のぶんまで議決権を行使できると考えると、次のような問題がありそうです。

共有者の間で議決権の行使について意見が一致していない(例えば、AとBが2人で共有している株式について、Aは甲さんを取締役にしたいと思っており、Bは乙さんを取締役にしたいと思っている。)場合、会社は、会社にとって都合の良い意見を持っている人物を権利行使者と認め、都合の悪い意見を持っている人物であれば権利行使者とは認めない、という運用を採る可能性があります。これでは、株主総会で株主の意見を問う意味がなくなってしまいます。

東京高裁は、このような不都合を指摘した上で、但書の読み方を少し工夫して、「準共有状態にある株式の準共有者間において議決権行使に関する協議が行われ、意思統一が図られている場合にのみ」、会社は106条但書の同意をすることができると判示しました。

この「意思統一が図られている場合」とは具体的にどのような場合をいうのかは必ずしも明確とは言えません(議案に対する賛否について共有者全員の意思が一致した場合をいうのか、共有者の多数決で賛否が決まっている場合をいうのか、など)。しかし、この裁判例によって、会社が106条但書の同意をして株式の共有者に共有株式の議決権を行使させることについて、一定の制約があることが明らかにされました。