弁護士工藤寛太(京都弁護士会所属)の警察法読解

京都の弁護士、工藤寛太です(京都弁護士会所属)。

刑事事件における弁護士の役割についてのブログを書こうと思って、書き始めたのですが、ふと警察官の階級のことが気になったので、少し横道に逸れて、今日は警察官の階級についてのブログを書こうと思います。相変わらず、京都とも弁護士とも関係ないブログになりますが、ご容赦ください。
ただ、弁護士として書く以上は、しっかりと法令の規定を参照しながら、警察官の階級について検討します。

私が弁護士を目指して法科大学院でせっせと勉強していたころの出来事ですが、あるクイズ番組で「警察官の階級を高い方から順に答えなさい。」という問題がありました。その問題の正解は、「警察庁長官→警視総監→警視監→警視長→警視正→警視→警部→警部補→巡査部長→巡査」でした。当時、法科大学院生で、人より少し刑事手続に関する見識があると思い込んでいた私は、この正解に疑問を持ちました。それは、警視総監と警察庁長官に上下関係はあるのか、という疑問です。警視総監は警視庁のトップであり、警察庁長官は警察庁のトップなので、比較対象として適切ではないのではないか、と思いました。

私は、手元にあった六法を開きました。とりあえず法律の規定を見てみる、という、弁護士を志す法科大学院生として模範的な行動をとりました。

警察法という法律があり、その62条は、「警察官(長官を除く。)の階級は警視総監、警視監、警視庁、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長及び巡査とする。」と定めています。ここでは、警察庁長官が除かれてしまっているので、警視総監との上下関係は不明なままです。
では、警察庁長官についての定めはどうなっているのか。これについては、警察法16条1項が、「警察庁の長は、警察庁長官とし、国家公安委員会内閣総理大臣の承認を得て、任免する。」と規定しています。さらに、同条2項は「警察庁長官は…警察庁の所掌事務について、都道府県警察を指揮監督する。」と規定しています。
警視総監は、警視庁のトップ、すなわち東京都警察のトップです。この規定によれば、警察庁長官は、京都府警などの都道府県警察を指揮監督する立場にあるということなので、東京都警察のトップである警視総監も、警察庁長官の指揮監督に服することになると考えられます。
しかし、警察法16条2項は、「警察庁の所掌事務について、」指揮監督すると規定しています。ということは、警察庁の所掌事務以外については、警察庁長官の指揮監督権は及ばないので、警察庁長官が警視総監よりも階級が上であるということにはならないと考えられます。

ほかにも、警察法には、警察庁長官から警視総監への指揮命令権を認めた規定がありますが、限定的な場面についての指揮命令権であり、警察庁長官に包括的な指揮権があるという趣旨の規定は見当たりません。

いろいろと書きましたが、結局のところ、警察庁長官と警視総監との上下関係は、明確ではないということでしょうか。実際には、警察庁長官の方が警察庁の入庁年度で先輩にあたるとか、そういった運用があるのかもしれませんが、法律の規定を見る限りでは、上下関係はないようです。そもそも、そのクイズ番組の問題は、「階級」が高い方から順に答えなさいというものでしたが、上記のとおり、警察官の階級を定めた警察法62条には、警察庁長官が挙がっていないため、警察庁長官は階級ではないと考えられます。

 

弁護士になってから、今まで以上に緻密に法律の条文を読むようになりました。受験生時代は、条文を読み間違えていても、試験の点が減点されるだけで済んでいましたが、弁護士として条文を扱う以上は、読み間違いは許されません。条文は、数が多い上に、言葉遣いが堅苦しく、読み解くのは大変ですが、それを正確に読み解くのが弁護士の仕事ですので、これからも、一生懸命条文と格闘していこうと考えています。