弁護士工藤寛太(京都弁護士会所属)の偽証罪紹介

京都の弁護士、工藤寛太です(京都弁護士会所属)。

先日、京都地方裁判所で、ある刑事事件の証人尋問手続がありました。
テレビドラマでは、決定的な目撃証人が出て来たり、弁護士や検察官が証言の決定的な矛盾を指摘したりして、これまでの裁判の形勢が一気にひっくり返るというシーンがよくあります。証人尋問といえば弁護士や検察官の腕の見せどころ、というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

証人尋問が弁護士や検察官の腕の見せどころであるというのは間違いではないかもしれませんが、決定的な目撃証人や決定的な矛盾というものは、現実の裁判ではめったにありません。

さて、この決定的な矛盾を指摘されるというシーンですが、ご存知のとおり、証人が虚偽の証言をすると、偽証罪の制裁を受ける場合があります。刑法169条は、「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する。」と偽証罪を規定しています。

この「虚偽の陳述」とは何でしょうか。記憶に反する証言をすることでしょうか、それとも真実に反する証言をすることでしょうか。

この問題に対して、最高裁の前身である大審院は、証言内容たる事実が真実に一致し、又は少なくとも不実であると認められないとしても、証人が殊更に記憶に反する陳述をなしたときは偽証罪が成立すると判断しました。つまり、記憶に従って証言をすれば、例えそれが真実とは合致していなかったとしても、偽証罪は成立しないということです。逆に、真実がどうであれ、記憶とは違うことを話すと、実際に処罰されるかどうかは別にして、法的には偽証罪が成立します。

弁護士は、実際に証言をしてもらう前に証人の方と面談をするのですが、私がこのときに意識するのは、偽証罪についての説明です。証人は、証言をする前に、裁判官の面前で「嘘の証言をしません」という宣誓をし、裁判官から偽証罪の説明を受けます。証人が偽証罪の存在を知っていたとしても、いざ実際の法廷に立って、裁判官から「殊更に嘘の証言をすると偽証罪として処罰されることがあります」と告げられると、相当萎縮してしまうと考えられます。そのため、証人の不安を除去するため、弁護士は、偽証罪の仕組みについて、事前にしっかりと証人に説明しておくのがよいのではないかと私は思っています。